米国経済の強さの理由のひとつに人材の流動性の高さが挙げられる。
米国では、民間と政府の人材交流が盛んで、
民間の動きが政府の政策に反映されやすいといったメリットがあることは日本でも知られている。
日本であまり知られていないのは、軍隊と民間の交流も活発だということだ。
ケロッグのランチセッションで軍隊出身の学生によるパネルディスカッションが行われたので、そこでの気づきを紹介する。
パネリストは、トップガン(全パイロットのトップ1%といわれるエリート集団)、海兵隊、潜水艦隊などでの小隊長経験者ら7人。
イラクなどの戦場でリーダシップを取ってきた面々だ。
彼らの経験が貴重なのは、命を賭しての経験であるがゆえに、その示唆の純度が高く、現実味があるということだ。
***要旨***
リーダーシップについて。
MBAの修了者が企業で直面するような課題をすでに体験している。
士官学校をでて、現場に入ると、自分よりも年長で経験の長い部下を率いなければならない。その際に重要になるのが、自分が秀でていると示すこと、実際に行動し(lead by example)最前線から指示を出すこと、部下の意見に耳を傾けることだ。
自分より劣るものや、安全なところから指示を出す人間についていく者はいない。
理論と実践について。
現場でリーダーシップを発揮するのに、士官学校で理論を学ぶことは重要だ。
また、砲撃を受けて部下が死んでいくような現場では、応戦や救護要請をするなどの判断を迅速に行う必要があり、柔軟で的確な判断が必要になる。
極限状態と現実感について。
戦場では、部下が死に、自分も命を失うことを恐れなくなる瞬間がある。
非常に興味深く、また、危険なメンタリティーでもある。
その極限状態から、日常の感覚に戻すには1カ月程度かかる。
日常の感覚に戻すことは重要なことだ。
部下のケアについて。
悲惨な出来事の後には、部下の話を聞くことも大事になる。
ただ、10分間、沈黙を共有するということも、ままある。
女性であることについて。
身体的な能力が男性より劣ることは受け入れる必要がある。
しかし、女性のグループの中で上位10~20%に入れば、例えば、自分より腕立て伏せが多くできる男性に対しても、平均より少ないのであれば、胸を張って鼓舞することができる。
また、女性をはじめマイノリティーは注目を浴びやすい。
自分の振る舞いが女性全体の印象を決めてしまうので、ハードルをクリアするプレッシャーは高い。
また、そうしたプレッシャーに備えるためのトレーニングも厳しい。
ビジネスにおいても、女性にはそうしたプレッシャーがあるのではないか。
プライドについて。
軍隊では自分が呼ばれる時に、5つくらいの罵りの形容詞が付く。
そう罵られても、いずれ、自分は大したダメージを受けていないことに気が付き、現時的に意味のあることにだけ注意を払えるようになる。
ストレス耐性について。
ストレス耐性をつけるには、自分を惨めな状態に置いて、そこから這い上がるしかない。
投資銀行であれコンサルティングであれ、どうしようもないプロジェクトからなんとかして這い上がることで実力もストレス耐性もつく。
直截であることについて。
戦場では、統制が必要なので階級が重要性を持つ。
しかし、作戦会議では自分が正しいと思うことに関しては、上官に対してもズバリ意見を述べることが求められている。
上官はそうした意見に反発感を決して持ってはならない。
夏にコンサルティング企業でインターンをして感じたことは、上司が間違いを指摘されることを過度に嫌うことだ。
***
パネルディスカッションの終了時、ケロッグで聞いた中でもっとも長く、大きな拍手が起こった。
彼らの話の内容や、時間を取ってもらったということに加え、国家のために命を賭けて行動したことに対する敬意であったと思う。
彼らは、軍隊での経験がビジネスに生きることに疑念を持たせない。
また、彼らはビジネススクールの中でも優秀な集団で、実際多くの人がトップコンサルティング企業で働くことになっている。
(プロジェクトベースの働き方が、作戦ベースの軍隊と似ているとの話もある)
加えて、極限状態を体験していることから生まれる視点や切り口は、彼らが真に力のあるビジネスリーダーになるのではないかと予感させる。
星条旗の強さはの源のひとつは、人材の高い流動性を実現しているシステムにある。
軍隊が、優秀な人材を獲得し、ビジネスマンとしても通用する知のトレーニングができているという事実。
そうした人材がビジネス界にも供給されていること。
ビジネススクールという場で、彼らの経験が共有されていることにも価値があるだろう。
日本も、より人材をダイナミックに流動化させるべきだ。
そのように思うとともに、そうした感想が底浅いと感じるほどに、日米の格差は大きいと思える。
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